業界人から見たAirjapan運航休止のわけ

航空

はじめに

2024年2月に運航を開始したばかりのAirJapanが、2026年3月末をもって運航を休止するというニュースが、航空業界に衝撃を与えています。わずか約2年という短命ブランドの裏には、単なる市場競争だけでは説明し切れない、複数の構造的・戦略的な課題が隠れていました。

本記事では、その「なぜ?」に迫ります。

1.AirJapanとは

AirJapanは、ANAホールディングス(ANAグループ)が、「中距離国際線を低運賃で運航する」という位置づけで立ち上げたブランドです。2024年2月に成田〜バンコク線などで就航を開始しました。 

機材には従来ANAが運用してきたボーイング787型機を改修して投入し、手荷物・座席指定・機内食などを有料化する「追加料金型」の運賃モデルを採用。LCC(格安航空)とFSC(フルサービスキャリア)の中間、とも言えるハイブリッド型航空会社として注目されました。 

2.運航休止の発表内容

2025年10月30日、ANAホールディングスは、AirJapanブランドを2026年3月末で運航休止とする方針を明らかにしました。 

ブランドとしての運航は、2026年3月下旬の冬ダイヤ終了をもって停止され、利用中の機材・人材・運航体制は「ANAブランド」に集約される方向です。 

3.運航休止に至った「理由」

運航休止の背景には、主に以下の複数要因が挙げられています。

  • マルチブランド戦略の再考:ANAグループ側が「複数ブランドで運航する」という戦略を見直す方針を打ち出しました。AirJapanは中距離国際線に特化したブランドでしたが、その位置づけをあらためて整理するというものです。  
  • 機材・部品等の供給遅延と運航効率低下:
    • ボーイング製機材の受領遅れ、エンジン部品の供給不足というグローバルな課題が影響しており、機材数が思うように確保できない状況でした。  
    • また、ロシア上空の通過制限が長期化しており、航路の迂回など運航上の効率悪化が発生。これにより「機材・乗員・客室乗務員」の必要数が高止まりしてしまったという指摘があります。  
  • 長距離国際線の高収益性とリソース配分:ANAグループとしては、長距離国際線に資源を集中していきたいという方向性を持っており、中距離路線を担っていたAirJapanへ投入するリソースを見直す判断に至ったという分析があります。  
  • ブランド浸透の遅れ/競争激化:LCCや既存FSCとの競争が激しい中で、「AirJapanならでは」の明確な差別化を市場に示し切れなかったとの声もあります。就航から時間が浅く、定着には至らなかったという見方です。  

というのが発表内容ですが、業界人からするとオブラートに包みすぎかなという感想です。

運航休止にするのはズバリ儲かっていないからです。

そしてその儲かっていない理由は明確でZIPAIRと同じ路線を飛ばせず、仁川やバンコクといったアジアの範囲から出ていないからです。
ではなぜできないのかというと、機材が足りないのはあるのかもしれませんが、最もクリティカルなのは外国人パイロットを採用しているからだと考えられます。

航空業界で外国人パイロットは野球の助っ人外国人同様、仕事内容に関わらず給与が日本人パイロットより高くなります。なぜならドル建てでの給与支払いや為替調整金が加わり、さらに母国に帰国する際の航空券代が嵩むからです。

その結果、円安とのダブルパンチでZIPAIRと同じ路線を飛ばそうとすると、必ず価格は高くなってしまい競争にならないのです。

それならANA便として活用した方が良いのではないのかということなのでしょう。

この結果は正直なところ、始める前から業界内ではわかっていた結果ではありましたが、恐らくコロナ禍での契約関係で辞めれなかったのではないでしょうか。

4.背景にある“時代が変わる”事情

航空業界を取り巻く環境が変化しており、以下のような背景がさらにこの決断を後押ししました。

  • 新型機材導入・納入遅延の影響:ANAグループは将来的に新型大型機(たとえばボーイング777Xなど)を導入予定ですが、その開発・納入が遅延しており、機材不足リスクが顕在化しています。AirJapanの運航体制を維持するための機材確保が難しいという判断もあったようです。  
  • 国際情勢・航路制限の影響:ロシア・ウクライナ情勢をはじめ、上空通過制限や航路の回避が長期化。これにより飛行時間が延び、運航効率に負荷がかかっているという事情があります。  
  • 旅行需要の回復フェーズによる変化:コロナ禍からの回復期において、需要構造も変わりつつあります。ビジネス需要の回復が長距離国際線において顕著であるとされ、そこでの収益性が見直されているようです。

5.影響と今後の展望

AirJapan運航休止という決断には、利用者・市場・グループ内それぞれに影響があります。

  • 利用者側:中距離国際線で手頃な運賃を売りにしていたAirJapanを利用していた旅客には、選択肢が減少するという影響があります。今後、ANAグループではANAブランドとLCCのPeach Aviation(ピーチ)ブランドを中核とする体制へ移行するという見方も出ています。  
  • ANAグループ内のリソース配分:機材・人材・運航ノウハウをANAブランドに集約し、効率化を進める方向です。AirJapan運航終了後は、運航会社であるエアージャパン(Air Japan/運航受託会社としての名称)は存続し、ANAブランドの国際線運航を担うという構想も報じられています。  
  • ブランド戦略上の教訓:わずか二年でブランド撤退という形になったことから、「新ブランド立ち上げ」のリスク、ブランド浸透の難しさ、運航体制・機材体制における安定性の重要性が改めて浮き彫りになりました。

6.まとめ

AirJapanの運航休止は、「単なるブランド撤退」ではなく、航空産業が直面する機材供給の制約、航路効率の低下、リソース最適化という構造的な課題が絡み合った決断といえます。

ブランド立ち上げから運航開始、そして休止に至るまでのスピード感の中には、航空会社としての“機動性”と“安定供給力”という相反する命題が見え隠れします。

利用者としては、今後どのキャリアが安心して利用できるか、どの運賃体系が適切かを改めて意識する良い機会とも言えるでしょう。

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