車を運転する際に車間距離を作れと習ったと思います。
おそらく交通ルール的には3秒ルールというものが当てはまると思いますが、今回はその飛行機版について解説していこうと思います。
飛行機にも「車間距離」がある?
車の運転では「前の車と一定の車間距離を取ること」が安全の基本です。
実は飛行機の世界にも同じような概念があり、**航空機同士が安全に飛行できるように、垂直・横方向・縦方向の間隔(separation)**が厳格に定められています。
ただし、空は道路のように線で区切られていません。そのため、飛行機同士の「距離」は三次元で管理されます。
つまり、**高さ(垂直間隔)・進行方向(縦間隔)・横の位置(横間隔)**の3つの要素を組み合わせて安全を確保しています。
垂直間隔(Vertical Separation)
基本は「1000フィートルール」
垂直間隔とは、上下方向における航空機同士の距離です。
最も一般的な基準は1000フィート(約300メートル)。
つまり、ある飛行機が高度30,000フィートを飛んでいる場合、上または下を飛行する機体は少なくとも1000フィート離れた高度を飛ぶ必要があります。
この基準は**「RVSM(Reduced Vertical Separation Minimum)」**と呼ばれる制度で、FL290(約29,000フィート)からFL410(約41,000フィート)の範囲に適用されています。
以前は2000フィートの間隔でしたが、航空機の性能向上と精密な高度計測技術により、現在では1000フィートにまで縮小されました。
高高度では再び2000フィートに
FL410以上(約12,500mを超える高度)では、空気密度が薄くなるため、気圧高度計の誤差が大きくなります。
そのため、再び2000フィート間隔が適用され、安全マージンを確保しています。
縦方向間隔(Longitudinal Separation)
縦方向間隔とは、同じ航空路を前後に飛行する航空機の間の距離、すなわち「進行方向の車間距離」です。
車の世界でいう“前の車との距離”に相当します。
管制による時間または距離の管理
縦方向の間隔は、航空機の速度や通信・監視能力によって異なります。
たとえば、管制レーダーが使えるエリアでは、**5マイル(約9km)**以上の距離を保つことが一般的です。
一方、レーダーの届かない海上空域では、**時間による間隔(例:10分)**を設定し、航空機の位置通報をもとに安全を維持します。
ADS-Bによる精密監視
近年は、ADS-B(Automatic Dependent Surveillance–Broadcast)という自動通報システムの導入が進み、リアルタイムで位置情報を共有できるようになりました。
これにより、より短い間隔でも安全に飛行できるようになり、燃料効率の改善や渋滞緩和にもつながっています。
横方向間隔(Lateral Separation)
横方向間隔とは、隣接する航空路や飛行経路の間の距離です。
道路で言えば「隣の車線との間隔」にあたります。
航空路の幅とナビゲーション精度
航空機は、GPSや慣性航法装置(IRS)を使って正確に航路上を飛びますが、完全に直線を保つことは難しいため、一定の誤差を考慮して航空路には幅が設けられています。
通常、レーダー監視下では3マイル(約5km)以上の横方向間隔が必要とされます。
レーダーの届かない海上空域では、航空路間隔が**30〜50NM(約55〜90km)**に設定されることもあります。
RNPによる精度向上
「RNP(Required Navigation Performance)」という概念では、飛行機がどの程度の精度で航路を維持できるかを数値で表します。
RNP 1.0とは「1NM以内の誤差で飛行できる性能」を意味し、これにより横方向間隔をより狭めることが可能になりました。
空の「車間距離」を守るのは誰?
こうした三次元の間隔をリアルタイムで管理しているのが航空管制官です。
航空機の速度、高度、航路、風向などを考慮しながら、他の機体との間隔を維持できるよう指示を出します。
例えば、
- 「日本航空123便、右に10度旋回」
- 「ANA456便、3000フィート上昇」
- 「スピードを250ノットに減速」
といった形で、パイロットに指示を与え、安全な空間的距離を常に確保しています。
パイロットの役割も重要
とはいえもちろん、最終的に機体を操るのはパイロットです。管制官が指示を出す前に明らかに、近づいて来てるなと思えば、自主的に速度調整を行ったりもしています。
管制指示に従うだけでなく、TCAS(Traffic Collision Avoidance System)という衝突防止装置で他機との距離を常時監視しています。
TCASは自動的に他機との相対位置を検出し、衝突の危険があれば回避上昇・降下の指示を音声で出すシステムです。
これにより、万が一の管制ミスや通信断が発生しても安全が守られます。
まとめ:空の安全を守る「見えない交通ルール」
飛行機の「車間距離」は、道路のように目に見える線で決まっているわけではありません。
しかし、航空管制、ナビゲーション技術、そしてパイロットの熟練した操縦により、見えない三次元の交通ルールが常に機能しています。
垂直・縦方向・横方向という3つの間隔を厳格に管理することで、毎日何万便もの航空機が世界中を安全に飛び続けているのです。
他にも航空関係の記事をまとめていますので気になるものがあれば見ていってくださいね。

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