はじめに
近年、航空ファンの間で話題となっている「ADS-B(Automatic Dependent Surveillance-Broadcast)」。
Flightradar24などのフライトトラッキングアプリで飛行機の位置を見たことがある人も多いのではないでしょうか?
このADS-Bは、航空機が自らの位置情報を地上局や他の航空機に送信するシステムで、次世代の航空交通監視技術として世界中で導入が進んでいます。
この記事では、ADS-Bの仕組みや種類、航空管制での活用方法、そして私たち一般人がどのように利用できるのかを詳しく解説します。
ADS-Bとは?
ADS-Bとは「Automatic Dependent Surveillance-Broadcast(自動従属監視放送)」の略称です。
名称を分解すると以下のようになります。
- Automatic(自動):人の操作を必要とせず、自動的に情報を送信する。
- Dependent(従属):GNSS(Global Navigation Satellite System、つまりGPS)から得た位置情報に依存している。
- Surveillance(監視):航空機の位置や速度を監視するためのシステム。
- Broadcast(放送):情報を一方向に広く送信する仕組み。
つまりADS-Bは、「航空機がGPSをもとに自らの位置を自動的に放送するシステム」です。
従来のレーダー監視と異なり、航空機が“自分の位置を知らせる”点が特徴です。
ADS-Bの仕組み
航空機はGPS受信機で自分の位置、高度、速度、方位などを取得します。
これらの情報をADS-B送信機(トランスポンダ)から1090MHz(Mode-S Extended Squitter)という周波数で定期的に送信します。
地上に設置された受信局や他の航空機はその信号を受信し、リアルタイムで位置を把握することができます。
送信される主なデータは以下の通りです。
- 航空機識別番号(ICAOコード)
- コールサイン(例:ANA123)
- 緯度・経度(GPS情報)
- 高度(気圧高度またはGPS高度)
- 対地速度および方位
- 機体の状態(地上走行中/飛行中)
これらの情報は数秒ごとに更新され、非常に高い精度でリアルタイム性があります。
ADS-Bの種類
ADS-Bには主に2つの形式があります。
1. ADS-B Out
航空機が自分の情報を外部に放送するシステムです。
航空管制や他の航空機がそのデータを受信して、航空交通の監視や衝突防止に役立てます。
国際民間航空機関(ICAO)は、将来的にすべての商業機がADS-B Outを搭載することを推奨しています。
2. ADS-B In
こちらは他の航空機や地上局のADS-B信号を受信するシステムです。
コックピットのディスプレイに周囲の航空機の位置を表示でき、パイロット自身が交通状況を把握できます。
特にアメリカでは一般航空機へのADS-B In搭載も進んでおり、空中衝突防止や状況認識に寄与しています。
レーダーとの違い
従来の監視システムである一次レーダーや二次レーダーは、地上から電波を発射し、反射波をもとに航空機の位置を測定していました。
一方、ADS-Bは航空機が自らの位置情報を送信するため、地上局の設備を大幅に簡素化できます。
さらに、レーダーは地球の曲率の影響で約400km程度が限界ですが、ADS-Bは衛星経由での監視(ADS-B via Satellite)も可能となり、海上や山岳地帯でも監視が行えるようになりました。
これにより、地上レーダーの届かない広大な空域での安全性が飛躍的に向上しています。
一般人も見られるADS-B情報
実は、ADS-Bの信号は暗号化されておらず、誰でも受信可能です。
そのため、世界中の航空ファンが受信機を設置してネット上で共有しています。
代表的なサービスが以下の通りです。
- Flightradar24
- FlightAware
- ADS-B Exchange
これらのサイトでは、リアルタイムで航空機の位置が地図上に表示され、便名、出発地・到着地、高度なども確認できます。
特にFlightradar24では、ユーザーが自作の受信局を設置してネットワークを支える仕組みもあり、世界中で数万人が参加しています。
ADS-Bのメリット
ADS-Bの普及によって、航空業界は多くの恩恵を受けています。
- 監視精度の向上:リアルタイムかつ高精度な位置情報が得られる。
- 通信量の削減:レーダーや無線管制の負担が軽減。
- 燃費・効率向上:正確なトラフィック情報で最適な飛行経路が選択可能。
- 安全性の向上:空中衝突や航跡逸脱のリスクを大幅に低減。
これらの理由から、ADS-Bは航空交通管理の新しい標準として国際的に採用が進んでいます。
今後の展望
ICAOはADS-Bを次世代航空交通管理(NextGen/SESAR)の中心技術として位置づけています。
すでにアメリカ、オーストラリア、欧州では義務化が進み、日本でも国土交通省が段階的導入を進めています。
将来的には、低高度空域を飛行するドローンやエアモビリティ(空飛ぶクルマ)にもADS-B技術が応用される見込みです。
空の交通が多層化する時代に、ADS-Bは「すべての飛行体をつなぐ共通言語」として欠かせない存在となるでしょう。
まとめ
ADS-Bは、航空機自身が位置情報を発信する次世代監視システムです。
従来のレーダーを補完・代替し、航空管制の効率化、安全性の向上、さらには一般人によるリアルタイム観測を可能にしました。
今後はドローンや小型航空機にも搭載が進み、空のインターネットとも言える新時代のインフラへと発展していくことでしょう。
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